貴方、そこで足を止めましたね。前にも一人、同じ棚の同じ高さで動けなくなった方がいましたよ。最初はね、逃げ切るつもりだったんです。『
サキュバスプリズン~淫魔の巣食う一軒家~』——三体の淫魔が棲む家から、息を殺して出口を目指す。あの子は真面目でしたから、足音を数えて、見つかっては搾り取られて、それでも次こそは逃げ切ると言うんですよ。可愛らしいでしょう。逃げる算段をしている時の横顔が、私は一等好きでした。
そのうち、わざと見つかるようになりました。ご本人は気づいていない。……この棚に並ぶのは、そういう終わり方ばかりです。剣を提げて歩いてきた者が、脚から先に用途を失っていく。あの子が最後まで手放さなかったのは『
飼い犬勇者と魔王の城』——呪いで歩けなくされた勇者が、城中の淫魔に抱えて運ばれ、行く先々で搾られるだけ。逆転は、ありません。彼はそれを何度も何度も眺めて、それきり帰ってきませんでした。
さて、貴方は。……いいえ、答えなくてよろしい。もう選んでしまっているのを、私はここから見ていますから。怖がらなくていいのですよ、ゆっくりご覧なさい。逃げ足の速い獲物ほど、時間をかけると甘くなるものですから。