匂いというものは、ずいぶん不公平にできています。目は閉じられる。耳も塞げる。けれど鼻だけは、貴方が生きようとする限り開きっぱなしなのですよ。呼吸——命を繋ぐためのその動作が、そのまま責め道具に変わってしまう。私がこの棚を美しいと思っているのは、そこです。逃げ道が、貴方自身の生存本能に封じられている。これほど上品な檻を、私は他に知りません。
それに匂いは、差し出されるものではないでしょう。言葉や視線と違って、彼女が隠しておきたかった部分が勝手に漏れているだけ。だからこの棚には顔面騎乗や汗、脱ぎたての下着が当たり前のように並び、呼吸そのものを取り上げる遊びと、それを嗤う声が寄り添っている。本来恥ずかしい思いをするのは彼女のはずなのに、その恥を貴方が代わりに背負って勃つ。倒錯として、実に見事な設計です。
棚のこのあたりは、私もよく手に取ります。『
妹の友達のマゾになる』——丁寧語を崩さないまま罵る子に「空気清浄機」と呼ばれ、蒸れた靴下を嗅がされる。人格を剥がされて機能の名前を与えられる瞬間の、あの静けさ。それから『
足がすごく臭い子 粘着質な足汗と濃厚な臭いで人間失格になる音声』。人間失格、と題に堂々と書いてあるのがいいのです。貴方が失格していく音は、私が隣で聞いていてあげますよ。